会社の代表者は配偶者の社会保険の扶養に入れない?
独立して会社を立ち上げたけれども最初は配偶者の扶養家族でスタートして人件費を抑えて…と思っていたら、代表者は社会保険の扶養に入れない?無報酬でも社会保険の扶養に加入できないケースについて社労士が解説します。
社会保険の被保険者となれる人
- 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚含む)、子、孫、弟妹で、主として被保険者に生計を維持されている人。同居と別居いずれの場合も収入要件(生計を維持されていること)を満たせば被扶養者となれます。
- 世帯主である被保険者と同居し、被保険者の収入により生計を維持されている次の人
①被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
②被保険者の配偶者又は事実婚の人の父母および子
③「②」の配偶者等が亡くなった後における父母および子
※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、除きます。
これらの人は同居している場合で収入要件を満たしている場合に被扶養者となれます。
全国健康保険協会 被扶養者とは?
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/1959-230
被扶養者となるための収入要件
【同居の場合】
年間収入が130万円未満かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
【別居の場合】
年間収入が130万円未満かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
ただし、上記の基準により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れており、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし保険者が最も妥当と認められる認定を行うこととなります。
会社の代表者の場合はどうなるのか?
さて、以上を踏まえますと、独立して会社を立ち上げたばかりで、役員報酬が少額であったり、出ていなかったりという場合は、配偶者や親の健康保険の被扶養者になれるのではないか、という可能性を考えたくなるでしょう。
ケーススタディで見ていきたいと思います。
①役員報酬を少額もらっている山田太郎さんは配偶者の扶養に入ることができる?
山田太郎さんの役員報酬の年間トータルは5万円×12か月=60万円。山田太郎さんは、収入的には配偶者の被扶養者となるための要件を満たしているように見えます。しかし、代表取締役は役員報酬が少額であったとしても、自らが社会保険の被保険者にならなければいけません。(役員報酬が発生すると、報酬金額に関わらず社会保険加入は義務です。)
そのため、残念ながらこのケースにおいては、山田太郎さんは被扶養者となることはできません。
その②役員報酬が0円の鈴木一朗さんは配偶者の扶養に入ることができる?
役員報酬が0円の場合は、会社の代表取締役であっても社会保険への加入義務はありません。そして、被扶養者となるための収入基準も当然満たすことになります。
このとき、鈴木一朗さんが配偶者の被扶養者になれるかですが、配偶者がどのような形で健康保険に入っているかで状況が変わります。
健康保険には運営主体が2種類あり、国が運営している「全国健康保険協会」と、大企業や事業団体が独自に運営している「健康保険組合」があります。
鈴木一朗さんの配偶者が加入している健康保険が「全国健康保険協会」のものであれば、鈴木一朗さんの報酬が0であれば被扶養者になれるというのが、全国健康保険協会の見解です。
しかしながら、鈴木一朗さんの配偶者が加入している健康保険が「健康保険組合」のものである場合は、各健康保険組合の判断によります。
私の実務経験を踏まえますと、ほとんどの健康保険組合が会社の代表取締役となっている者を扶養認定することには消極的で、国民健康保険へ加入するように言われることが多いという実感を持っています。
起業家の方へのアドバイス
それでは、会社を設立して代表取締役に就任したときは、どのようにするのが最も得なのでしょうか。
・役員報酬を0円にして配偶者の扶養に入る
配偶者が全国健康保険協会で健康保険に加入していて、当面は配偶者の収入だけで家計が成り立つのであれば、役員報酬を0にして、配偶者の被扶養者になることが最もコストメリットがあるでしょう。
・社会保険の加入により国民健康保険料の負担を避ける
配偶者の被扶養者になれない場合、役員報酬を少額出して、自社で社会保険に加入してしまったほうが得なケースが多いです。というのも、自らの会社で社会保険にも加入しない場合は、国民健康保険に加入しなければなりません。
国民健康保険の保険料は、前年度の収入によって保険料が決まるので、起業家の方というのは、独立前はどこかの会社でバリバリ働いていた方がほとんどでしょうから、前年度の収入ベースで国民健康保険料を計算すると、膨大な額になってしまう可能性が高いのです。
これを回避するためには、自分の会社で社会保険に加入してしまえば、「現在の役員報酬の額」に基づいて保険料が決まるので、役員報酬を5万円にすれば、5万円に応じた社会保険料を支払うだけで、健康保険はもちろん、厚生年金にも加入することができるわけです。
・「任意継続被保険者」の制度を利用する
配偶者の被扶養者になれない場合、もう一つ選択肢があります。
独立前に勤めていた会社の保険料がリーズナブルであったり、関東IT健保組合のように補償が手厚い健康保険組合に加入していたりという場合は、「任意継続被保険者」という制度を用いて、独立後2年間は元の会社の健康保険を継続するという方法もあります。
どのような形が自分にとって最も得かは、ケースバイケースですので、自分の置かれている状況を踏まえて、専門家に相談してみるのが良いかもしれませんね。
榊 裕葵
ポライト社会保険労務士法人 社会保険労務士。上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務後、社会保険労務士として独立。勤務時代、常に経営者の側で仕事をしてきた経験も活かしながら、スタートアップ企業の労務管理体制の構築や、助成金申請の支援を積極的に行っている。