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「署名」と「記名」、「捺印」と「押印」はどう違う?法的効力にも関わる知っておきたいこと!

日本で契約書などの取り扱いをするときに、「署名」「記名」「捺印」「押印」などの呼び名が組み合わされて用いられていますが、それぞれ意味をきちんと理解していますか?

使い方によって法的な効力なども変わってきます。今回はそれぞれの言葉の意味をおさらいましょう。

(1)署名


自己同一性を証明するために、本人が自筆で氏名を手書きすること(自署)を表します。

署名による筆跡・筆圧などは署名人により異なるため、署名の真贋を問われる問題が発生したときは筆跡鑑定をすることで、たとえ署名人が存命していなくても、第三者により署名と署名した本人との真正を推定することができると、民事訴訟法第229条、筆跡等の対照による証明 に規定されています。

(筆跡等の対照による証明) 第二百二十九条  文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても、証明することができる。 (以下、省略)

これによれば、法人の代表者が「署名」した場合、会社の意思で契約が結ばれたと証明できます。

(2)記名

署名以外の方法により自分の氏名を現すことで、ゴム印やパソコンでの氏名等の入力、他人が代理で氏名を記する場合などです。

これは、第三者の介在する余地があり、「記名」された者の意思であることは証明できません。

(3)押印・捺印


捺印(ナツイン)と押印(オウイン)の違いはなんでしょうか?捺印と押印は、どちらも印鑑を押す(捺す)という意味に変わりありません。

捺印とは署名捺印が略された呼び名となります。
押印とは記名押印が略された呼び名となります。

つまり「署名」か「記名」かによって、「印鑑を押す行為」の呼び方が変わってきます。自分が名前を手書きした書類に印鑑を押す行為を「捺印」、手書きでない名前が記載された書類に印鑑を押す行為を「押印」と呼びます。

民事訴訟法第228条、文書の成立 第4項 にて「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」との推定規定が設けられています。

(文書の成立)第二百二十八条  文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。 2  文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。 4  私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。5  第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。

また、商法第32条には、以下のように規定され、商取引においては、記名押印することで署名と認めると規定しています。

第三十二条  この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。

自身で手書きした上に、印鑑が押されている書類は、法律的に証拠能力の高い書類となります。
効力としては「記名」よりも「記名押印」の方が強く、「記名押印」よりも「署名」の方が強く、「署名」よりも「署名捺印」が強い証拠能力となっています。

※法的な証拠能力 ①>②>③>④

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(4)相談事例

相談事例① 書類に押印したものをPDFにして、取引先のB社にメールで添付して送付しても大丈夫ですか?

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B社が受け取ったものは、「写し(コピー)」です。 複製された書面には、契約書の原本と同様の証明力はないと考えられます。のちにトラブルとなった場合のリスク管理の契約書の作成としては、B社にとっては 不十分な処理の仕方と考えられます。

そのため、契約書のやりとりをする場合は、PDFではなく、原本を郵送で送るなどしましょう。

相談事例②取引先は海外の会社C社。C社から送られてきた契約書はサインのみでしたが、問題ないのでしょうか?

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海外の場合、印鑑自体がない国も多いので、サインでも問題ありません。法的な効力ということでは、契約当事者がその意志に基づいて署名捺印またはサインしているということが、証明できれば問題ありません。

アメリカにおけるサイン証明について説明されています。ご参照ください。

サイン証明:米国 | 貿易・投資相談Q&A – 国・地域別に見る – ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000949.html

以上となります。

一般的な会社では、契約書をかわす場合、記名押印(ゴム印を使った名前+印鑑)を利用している場合が多いと思います。ただ、「記名押印」より手書きのみの「署名」の方が法的効力が高いということを知らない人は意外と多いのではないでしょうか?書面で契約を締結する場合、記入方法によって法的効力が異なるということをきちんと理解したうえで契約を交わしましょう。

渡邉 茂実

行政書士 わたなべ法務事務所 特定行政書士。レコード会社勤務、音楽教室経営を経て、2013年より行政書士わたなべ法務事務所を開業。著作権を中心とした知財関連法務、インターネット法務を得意分野として、様々な企業法務のサポートを行っています。