1人社長の給与計算。ちゃんと計算できてますか?
会社を設立し、役員報酬の支払が始まったら、社長1人の会社であっても給与計算が必要になります。
役員報酬は毎月定額なので給与計算は簡単そうに見えるのですが、控除する社会保険料や税金の計算が案外ややこしいのです。(社長1人の会社であっても社会保険に加入する義務があります)
以下のケースに基づき説明をしたいと思います。
株式会社X(東京都)
甲山乙男社長 30歳 役員報酬 40万円/月
扶養家族 なし
結論から言うと、甲山社長の給与計算は以下の通りになります。(平成28年7月現在)
「控除」の項目で出てくる金額がどのような根拠に基づいて導き出されるのかが給与計算のポイントになりますので、順番に説明します。
(1)健康保険
まず、健康保険の保険料ですが、「保険料額表」という表に基づいて計算します。「保険料額表」とは、額面の役員報酬額(社員の場合は給与額)を一定幅で区切って等級化し、「この等級に当てはまったら保険料はいくら」というように当てはめるための表のことです。
保険料額表(全国健康保険協会 協会けんぽの場合)はこちら。
※甲山社長の場合は、395,000円から425,000円のレンジの等級に当てはまり、この等級に当てはまる場合、役員報酬から控除する保険料は20,418円。
保険料額表を使うときの注意点は、健康保険の保険料率は都道府県ごとに異なります。
以下の3点をおさえておきましょう。
①会社の所在する都道府県の保険料額表に当てはめること。
②保険料額表は定期的に変更されることがあるので最新版を使うようにすること。
③40歳以上の場合は介護保険料が上乗せされるので、介護保険料を含んだ額のほうを控除すること。
(2)厚生年金
厚生年金の保険料ですが、こちらも考え方は健康保険と同じで、「保険料額表」には等級ごとに控除すべき厚生年金保険料の額も併記されていますので、保険料額表に基づいて保険料を控除すれば問題ありません。
なお、厚生年金の保険料は全国一律です。
※甲山社長の場合は、395,000円から425,000円のレンジの等級に当てはまり、この等級に当てはまる場合、役員報酬から控除する厚生年金保険料は36,547円。
(3)所得税
所得税は、国税庁が出している「月額表」という表に当てはめて計算をします。
月額表(給与所得の源泉徴収税額表・平成29年分)はこちら。
役員報酬から(1)健康保険料と(2)厚生年金保険料を差し引いた、343,035円が課税所得となる。
※月額表の「341,000円以上、344,000円未満」の個所に当てはまり、扶養親族は0人なので、役員報酬から控除すべき所得税は11,850円。
※月額表の一番右に「乙」。これは複数の会社を経営していて、「こちらの会社が副業だよ」というような場合にのみ使う欄のため、そのような場合でなければ無視してください。
なお、月額表も毎年変更になりますので、最新のものを用いるようにして下さい。
(補足)住民税
住民税の特別徴収をしている場合は、市区町村から通知された住民税の金額を控除します。
さて、給与計算のだいたいの概略は分かりましたか。
最新版の保険料額表や月額表が出ていないかを常に確認したり、役員報酬が変更になった場合の当てはめルールも複雑なので、社長1人の会社であっても正しく給与計算を行おうとすると、意外に負担がかかるものです。
そこで、社長が本業に集中するためには、2つの選択肢があります。
①税理士や社会保険労務士といった外部の専門家に依頼
専門家はプロですから、役員報酬の額と扶養家族の構成などの前提条件を伝えれば、毎月正しく給与計算を行い納品してくれます。
②クラウドの給与計算ソフトの利用
例えば給与計算freeeや、MFクラウド給与などが代表的なソフトとして挙げられます。これらのソフトは、常にシステム提供者側で最新の保険料額表や月額表をプログラムに組み込んでアップデートがなされていますので、パッケージ型ソフトのように、自分で設定変更をしなければならないという煩わしさがありません。
基礎的な前提条件を入力すれば、あとはソフト側で自動的に給与計算を行ってくれます。
社長1人の会社の場合は、社長がバックオフィス業務に時間を取られることなく、どれだけ本業に集中できるかが重要になってくると思いますので、必要に応じて専門家へのアウトソーシングやクラウド給与計算ソフトの活用を是非検討してみて下さい。
榊 裕葵
ポライト社会保険労務士法人 社会保険労務士。上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務後、社会保険労務士として独立。勤務時代、常に経営者の側で仕事をしてきた経験も活かしながら、スタートアップ企業の労務管理体制の構築や、助成金申請の支援を積極的に行っている。