なぜ契約書に収入印紙を貼る必要があるの?貼り忘れたときはどうなるの?
収入印紙(印紙税)とは?
印紙税について、契約書を作成した場合に必要となることは多くの方が理解していると思われますが、その意味や内容については理解されていないかもしれません。
そういう私も、「法令にて規定されているから・・・」としか説明が難しいところではあります。
印紙税について、我々が感じている「曖昧な感覚」を代弁してか、第162回国会において、参議院議員(当時)の櫻井充氏が質問主意書にて印紙税に関して、様々な質問をされています。
当時の内閣総理大臣、小泉純一郎氏は、その答弁書において「印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求めるものである」と述べています。
つまりは、国が法令によって取引事実、法律関係の安定性と、当事者への経済的利益をもたらしているので、相当の負担を求めている、ということでしょう。
実務では「法律で決められているから」「脱税とならないように」といった理解で印紙税を捉えても問題はないでしょう。
【参照】
収入印紙が必要な書類とは?
収入印紙が必要となる文書(これを課税文書と言いますが)は、印紙税法に決められています。
印紙税法では、別表第一として、課税物件表が掲げられており、課税対象となる文書の類型、その内容、課税額、非課税文書が規定されています。
国税庁は、この課税文書であるか否かの判断について、以下の3つのすべてに当てはまる文書を課税文書であるとしています。
(1)印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
(2)当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3)印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
要件は3つありますが、実際には作成した文書が、印紙税法別表第一(課税物件表)に該当するかを検討することとなります。
しかし、いざ判断しようとすると、印紙税法別表第一(課税物件表)の類型にぴったりと当てはまれば良いのですが、現実の契約書実務などでは、ある類型に当てはならない契約書や幾つかの類型の要素を併せ持った契約書であることが多くあります。
2つ以上の課税文書に該当する文書の所属の決定は、以下の参照にある「2以上の号に該当する文書の所属の決定」をご覧いただきたいのですが、文書の課税文書の該当(どの課税文書に当たるのか)について迷われる場合には、国税庁または管轄の税務署に問い合わせることが一番と思われます。
印紙税って、実は、税理士試験科目にもなく、税理士法でも税理士業務から印紙税は除かれています。
税の専門家と思われる税理士の方の専門分野でなく、我々、行政書士も必要に応じて内容を確認するといった分野なので、確定的な判断は、国税庁または管轄の税務署とならざるを得ません。
【参照】
・印紙税法
・No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断|印紙税その他国税|国税庁
・2以上の号に該当する文書の所属の決定|印紙税目次一覧|国税庁
・税理士法
業務に関わらず必要となる可能性のある文書
① 定款:6号文書
定款とは、法人の憲法とも言え、その法人の根本的規則を意味します。会社法に規定される会社は設立手続きとして、作成しなければならない書類です。
これらの定款のうち、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社及び相互会社の設立時に作成される原本は、6号文書に該当し印紙税が課せられます。
「あれ、私の会社の定款には、印紙が無いようだが・・・」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
最近は、定款を電子定款として、この印紙税を節約する方法が一般的になってきています。会社登記の際に、文書とCD-Rなどでファイルとしての定款を提出している場合、これに該当しています。
【参照】
② 請負に関する契約書:2号文書
請負とは、一方が相手方に対し仕事の完成を約束し、もう一方がこの仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束することを内容とする契約を言います。
「仕事の完成」は、納入物があるかどうかでは判断しませんから、納入物の無い役務の提供でも、請負契約と理解される場合があります。
印紙税法別表第一(課税物件表)では、工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書などを例示しています。
「映画俳優専属契約書」などは、俳優は直接的な納入物としての映画を納入はせず、俳優としての役務を提供するのみですが、請負に関する契約書に例示されています。
③ 継続的取引の基本となる契約書:7号文書
「継続的取引の基本となる契約書」とは、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となる事項を定める文書のうち、政令で定めるものとされています。
「政令で定めるもの」というのは、以下の5つの要件、すべてを満たす文書が該当します。
- 営業者の間における契約であること
- 売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負のいずれかの取引に関する契約であること
- 2以上の取引を継続して行うための契約であること
- 2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約であること
- 電気又はガスの供給に関する契約でないこと
印紙税法別表第一(課税物件表)では、売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書、銀行取引約定書などを例示しています。
ただし、「契約期間が3ヶ月以内であり、かつ、更新の定めのないもの」は7号文書から除かれます。
請負契約と委任契約の違い
一般的に、請負は「契約した内容の完成」を目的とし、委任は「契約した業務の処理」を目的とすると理解されます。
請負に関する契約書は、2号文書として明示されていますので、その点は疑いはありません。ただし、委任に関しては、7号文書に業務委託契約書の例示があることから、単純に7号文書と理解されている方も多いかと思います。ただし、「仕事の完成」という契約内容によっては2号文書と判断される可能性もあります。
さらに、IT業界で、業務委託を準委任と理解し、請負や委任とは違い、不課税文書であるとの判断をされているケースもあるようですが、準委任というのは、民法上は委任の規定が流用されますので、準委任という文言のみで委任とは違うとの理解はできません。
課税文書の判断は、契約の内容によりますので、契約書の題名や類型だけから画一的に判断することは禁物です。
【参照】
収入印紙っていくらかかるの?
印紙税の額は、印紙税法別表第一(課税物件表)に記載されています。
文書に記載された金額により税額が変わるものと該当文書により一律の金額のものがありますので、実務上、印紙税法別表第一(課税物件表)は必携の資料となるでしょう。
【参照】
収入印紙は、郵便局、郵便切手類販売所にて購入ができます。
現在は、郵便切手類販売所は主にコンビニですので、コンビニチェーンでは基本的にどこでも購入ができます。ただし、高額の収入印紙を置いていない(200円の収入印紙以外は売っていない)ことがほとんどのようです。
その他、法務局では登記などの書類に必要なので、購入することができます。
収入印紙を貼り忘れたときはどうなるの?
収入印紙が貼られていない契約書であっても、契約当事者の同意事項は証明され、契約書自体が無効となることはありません。
ただし、課税文書にもかかわらず、税務調査で印紙が貼られていないことが発覚した場合は、 本来納付すべきだった印紙税の3倍の過怠税が徴収されます。また、調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出た場合でも1.1倍の過怠税が徴収されますので、正しく納税するように注意しましょう。
【参照】
契約書の収入印紙。どちらの会社が払うの? (契約書の作成した会社?契約書を受け取る会社?)
印紙税の納税義務は、課税文書の作成者が、その作成した課税文書について印紙税を納める義務があると定められています。契約書であれば、契約内容の「証明の時」に契約当事者(作成名義人)に納税義務が生じます。
契約書にて「以上、本契約締結を証するため、本書二通作成し、両当事者それぞれ記名捺印の 上、各一通を保有する。」とした場合、 契約書の正本を2部作成することとなりますので、それぞれの正本に印紙の添付が必要になります。
この場合には、契約当事者が印紙税を文書1部につき負担し、折半することとなるでしょう。
PDFなどの電子データでやり取りした文書にも収入印紙って必要?
契約は、文書でなければ成立しないこととされている一部の契約類型を除き、形式にとらわれません。ほとんどの契約は、口頭であっても、PDFファイルによってであっても成立します。
PDFファイルでやり取りされた文書については、実際に文書が交付されたとは判断されません。PDFファイルをプリントアウトしても、それは「写し」であると理解され、課税文書にはなりません。そのため、収入印紙は不要です。
課税文書は、あくまでその文書の正本が該当するもので、正本がファイルとなっているものは、課税文書としては取り扱われません。
参照
渡邉 茂実
行政書士 わたなべ法務事務所 特定行政書士。レコード会社勤務、音楽教室経営を経て、2013年より行政書士わたなべ法務事務所を開業。著作権を中心とした知財関連法務、インターネット法務を得意分野として、様々な企業法務のサポートを行っています。