【前編】「自分に万が一のことがあった時に、果たして会社はどうなるのか」NPO法人全日本保険FP協会副理事・奥田氏が語る、ベンチャー経営と保険
多くの中小・ベンチャー企業経営者にとって、近いようで遠い「保険」と「税金」。
保険は馴染みなく、逆に税金に対しては節税の意識こそ強いものの、知識不足からその本質を見誤っているケースも少なくない。
今回は、NPO法人全日本保険FP協会で副理事長を務める奥田氏にインタビューを行い、前編では保険について、後編では税金についてそれぞれお話を伺った。
多様化する価値観の中で、経営者にとっての「保険」と「税金」の在り方について、改めて考えていく。
保険はリアルじゃない、自分ごとじゃない
—最近の若い経営者やビジネスマンにとって、保険ってリアルじゃない、自分事じゃないという感覚が強い気がしますが、これってなんでなんですかね。
昔は脱サラという言葉があったように、元々自分で事業を始める人はいましたが、昔は大手で経験を積んで40代から始めますとか、スタートが遅かったと思うんですよ。
それが今では、大学生でもアフィリエイトで月20万円稼いだり出来る時代になりました。
—学生ベンチャーが出てくる時代ですもんね。昔は飲食店で頑張って稼いで8万円とかだったのが。
例えばその学生がアフィリエイトを続けて起業したとして、保険に触れる機会ってほぼないと思うんですよ。あるとすれば、アフィリエイトの商材として扱うくらい。単価高くて儲るなぁって。笑
—そっちですか。笑 あとは車買う時も保険入りますけど、車に乗る人も少なくなっていますし、結婚もしないから、若い人たちが保険に関わる機会って本当に減ってきていますよね。
そうですね。保険に触れる機会が減っているので、リアルじゃない。
ただ個人事業であれ法人であれ、取引先があります、従業員がいます、結婚します、というように利害関係者が増えてきた時には、保険は考えておかなければならない1つのテーマだと思いますね。
保険に触れる機会が少なくなった、時代背景
ー時代背景を考えてみたいんですが、最近でこそ個人事業主とかベンチャーが当たり前になってきているものの、10年とか20年前は大企業や、一流企業に入るのがステータスだったと思います。そしてそのオフィスの中で、保険のセールスレディーとかがウロウロしている、そういう時代でしたよね。
そうですね。昔は今おっしゃったように、いわゆる職場に飴ちゃん置いて、雑誌を置いてっていう営業スタイルだったんです。
新入社員が来るとアンケートを書かせて、訳も分からず生年月日を書かせて、アンケートに答えるとお菓子がもらえる。笑 そしたら翌日には机の上に保険の設計書が置いてあるっていう。笑
—なるほど。笑 就職すると保険に入るのが当たり前だったんですね。
そうですね。大きな流れとしては、昔はそういった職場で加入する機会があったと思うんですけど、最近は個人情報の関係で、保険セールスが職場に自由に出入りできなくなった。
あと1番大きい変化はネットですね。供給側だけが情報を持っていて、消費者側が何も情報を持っていなかった時代から、ネットで検索するだけでいろいろな情報が入ってくるようになった。
そうすると消費者側も物を選ぶときにネットで検索して、自分で正しいかどうかを判断して、より良いものを選ぶようになった。
保険においても自由な流通が始まったというのが、大きな時代背景としてあると思います。
—確かに感覚的には、個人で入る保険はネットで調べてそのまま契約しても、いけそうな気がするんですよね。たいした保障をつけなくても良いし。しかもネットだと割引きもあるじゃないですか。
そうですね。今では体制も整っているので、メールを送ればすぐ返してくれますし、個人の生命保険、損害保険に関してはネットで完結すると言っても過言ではありません。
—ですよね。だから保険に対するハードルは、良い意味で下がってはいるんですけど、じゃあ自分で会社をやる時に、本当にそのままの感覚でいいんだっけ?という漠然とした不安はありますね。
おっしゃる通り、企業の経営という部分に関しては、例えば税理士など、経営をサポートする人たちとリアルな接触があった方が良いと考えています。そこが時代とともに薄くなっている印象はありますね。
—まさにBizerなんかそれを助長しているんですけど。笑
でもBizerは、ユーザーさんからの相談を専門家に繋げるマッチングですよね。
—それでいうと、運営していて最近思うのは、目的意識があって質問する場合は専門家が答えてくれるんですけど、おっしゃっているように、用事がなくても専門家と会話する中で見えてくる、潜在的な課題もある。保険はまさに目的意識をもってユーザーさんが来ないので、こちら側から呼びかけをしないといけないなと感じています。
そうですよね。やはり若年化というのもあり、保険のニーズが顕在化している経営者って少ないんですね。病気になった人、病気の不安がある人ならありえるかもしれませんが、基本的には少ない。
実は潜在的に抱えているリスクがあるのにも関わらず、それに気づいていない、これをいかに顕在化させるかはやはり対面での会話ですね。
とはいえ、保険屋さんに会いたいという経営者がいるかというと、0なんですよ。わざわざ会いたいとは思わない。笑
—そこは、逆にニーズが顕在化していれば会いたいと思うでしょうし、難しいですね。こういった背景があるので、今回のインタビューを通して少しでも保険の必要性に気づいてもらえたらというところで、掘り下げていければと思います。
まずは万が一の場合を想像してみる
—20代や30代の若い経営者にとっては、基本的に病気や死ぬことへのリアリティはほぼ0。借金してもなんとかなるだろうっていう、ポジティブな人が多いですよね。これってなんでなんですかね?
「災害があっても自分のところには来ないだろう」ということですよね。
死亡率や病気の発症率は年を重ねるごとに上がっていくわけなので、周りで病気になっている人もまだ多くないでしょうし、リアリティはなくて当然なんじゃないですか。
—なるほど。
ただ、そこで万が一のことが起こった時に発生する損害って、甚大なんですよね。そしてそれも実はよくできていて、万が一のリスクを抑えるためのコストって、安いんですよ。
例えば保険だと、20代と70代で保険料が何倍も違います。だったらその安いコストで考えておく価値はあるんじゃないですか、ということです。
—そうですね。別に保険をケチろうとかではなくて、考えたことがないっていう、そっちなんですよね。
ベンチャーの人って若いですから無茶もききますし、健康管理もあまり出来ていない人が多い。ですが経営に関するプレッシャーもありますし、無理もしますから一般の会社と比べて病気にかかる確率はそこそこ高いと思うんです。
自分に万が一のことがあった時に、果たして会社が回っていくのかどうかは、頭の片隅に入れておいて欲しいですね。
—万が一のケースでは、具体的にどのようなことが起こりえますか?
まず社長が亡くなった際に、事業がどうなるのかというお話。もし良い事業であれば継ぐ人がいたり、買収されたりして事業が続いていくので、それなら良いと思うんですよ。
ただそこまで辿り着いていない、これからという会社の場合は、継ぐ人がいなかったら会社を潰す、清算しなければいけません。
このイメージを分かりやすく言うと「決算書の貸借対照表上の資産を全て現金化して負債を全て払えますか?」ということです。
例えば、貸借対照表の負債の部。借金や未払金は全部払わないといけないですよね。そして資産の部は、現預金はそのままですけど、それ以外の資産がお金になるかといえば、ほぼならない。
プラスマイナスした時にはおそらく負債の部の方が大きくて、この負債は残された人が払わなければいけない、という状況になります。
—社長個人の連帯保証が入っている場合は、家族にいくんですね。
はい。最近でこそ経営者個人が連帯保証しなくて良いというものもありますけど、相当ハードルが高いので中小企業では難しいですね。
—そうですよね。
残された家族が借金を背負わないといけない。結婚していれば、奥さん子供さん。結婚していなければ、親御さん。今まで育っててもらった両親に、尻拭いまでさせるのかという。
—テキストで理解している人はいるかもしれませんが、改めてイメージしてみるとかなり地獄絵図ですね・・・。
もっとリアルな話をすると、葬儀が終わった頃に銀行が来るんですよ。代表取締役が不在なので、誰かが代わりになって、会社を締めないといけない。もしかしたらそこで、親御さんにお願いしなければならないかもしれない。
経営者の立場からすると、自分は死んでも良いかもしれませんけど、残された人間たちにとってはたまったものじゃないですよ。保険を考えるというのは、家族や両親に対する愛情表現のようなものですね。
とはいえそこで大きなコストがかかって、資金繰りを圧迫したら本末転倒なので、費用対効果も考えなければなりません。
—自分事として考えるのが重要そうですね。
そうですね。1回だけでも良いので、自分がいなくなったらこの会社はどうなるんだろうということを考えてほしいですね。
これは保険どうこうではなく、事業を展開していく上でも重要なことで、自分がいなくても回っていくようなビジネスモデルでないと、大きくはならないじゃないですか。
この事業をどうしていきたいのか、どう生きていきたいのかというのがあって、もしこの計画がうまくいかない、万が一っていうのを、ちょっとだけ付け加えて考えていただければ、それでいいんですよ。
結果として保険はいらない、というケースもあっていいと思います。
—若いうちはコストが小さいというのを考えると、現実的に考えられる要素の一つだと思いますけどね。
それこそ六本木で一回飲むくらいのコストで、年間保障が組めますよっていう。笑
例えば月に1万円の保障でも、30歳くらいで掛け捨ての万が一になると、5000万円から1億円くらいの保障がもらえるんじゃないでしょうか。
【後編】「多様化する仕事の価値観の中で、なぜ税金だけ変わらないのか」NPO法人全日本保険FP協会副理事長・奥田氏が語る、税に縛られない経営 へ続く
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