創立費・開業費とは?開業前の会社設立や開業準備に使ったお金も経費にできる!?節税するには?
開業前の会社設立や開業準備の支出は経費にできる!
最近、特にこの数年でしょうか・・・。あくまで個人的な感覚ではあるのですが、会計士・税理士として仕事をしていて、設立第1期目の会社で、会社設立や開業準備で使ったお金を「創立費」や「開業費」で費用に計上できることをご存知ない方や、間違った認識を持たれている方が多くいらっしゃるように感じています。
また、「創立費」、「開業費」をネットで検索してみると、「創立費・開業費を使って上手に節税しよう!」などといった創立費や開業費を上手く活用して税務的にメリットをとる方法がいくつも紹介されています。
しかし、一部の記事では、「本当にこれが創立費や開業費と果たして言えるのか?」と疑問に感じてしまうような支出まで、その対象になるものとして紹介されていたりするページを見かけることも。
ネット上の不確かな情報を見て、創立費や開業費にしてはいけない項目まで計上してしまう方もいらっしゃるのではないかと心配しております。
そこで、今回のコラムでは、皆様がそのような落とし穴に陥ることがないよう、創立費と開業費の会計上・税務上のチェックポイントについてお話したいと思います。
「創立費」、「開業費」の違いとは?
まず、定義から説明します。現在の法律では明確には定められていませんが、古くからの会計実務の中で醸成されてきた慣行から、一般的には以下のように定義されます。
創立費とは?
会社設立のためにかかった設立費用をいいます。ポイントは以下の2点です。
①会社設立のための費用であること
会社設立に要した費用であるため、会社設立前に支出している費用です。
②基本的には定款記載が必要
会社法上、計上するためには、設立時の定款への記載が必要です。ただし、例外的に設立登記に係る登録免許税や定款の認証費用は定款記載が必要でないことになっています。
例えば、
-
- 定款及び諸規則作成のための費用
- 株式募集その他の為の広告費
- 目論見書・株券等の印刷費
- 創立事務所の賃借料
- 設立事務に使用する使用人の給料
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取扱手数料
- 創立総会における費用
- その他発起人が受ける報酬で定款に記載された金額
- 設立登記の登録免許税等
など
これらの費用は「創立費」として計上します。
また、法人税法基本通達においては、上記費用について定款記載がなくても、創立費として計上してよい旨が規定されています。株主が役員様だけのような中小企業においては、定款記載を失念していたとしてもこの基本通達に基づいて創立費の計上が認められますのでご安心下さい。
開業費とは?
会社設立後、営業開始時までに支出した開業準備のための費用をいいます。ポイントは以下の2点です。
①開業準備のための費用であること
開業準備に直接かかった費用である必要があります。
②会社設立後営業開始時までに支出していること
会社設立前のものは対象になりません(これは上記の創立費の範疇です)。また、営業開始してしまうと、それ以降は対象とはなりません。
例えば、
-
- 広告宣伝費
- 通信交通費
- 事務用消耗品費
- 支払利子
- 使用人の給料
- 保険料
など
これらの費用は「開業費」として計上します。
なお、「人件費」、「賃借料」、「水道光熱費」などの毎月きまって支出される費用に関しては、開業準備中に支払ったとしても、開業準備のために特別に支払った費用とは認められません。そのため「開業費」で費用を計上せず、それぞれの費用に適した勘定科目で費用を計上します。
創立費と開業費の支出のタイミング
これまでの説明を簡単に図示すると以下の通りです。
開業費として計上すべき取引を創立費として計上していたり、また、逆に創立費として計上すべき取引が開業費とされていたりするケースもちらほら見られますので、上図を参考にその両勘定科目の入り繰りが生じないように注意が必要です。
「創立費」、「開業費」で費用となるケース
以下のケースで「創立費」に該当するかどうかを確認してみましょう。
<例>
会社設立の手続きに不安があり、設立後も専門家にいろいろと相談したい。そのため、会社設立前(設立準備期間中)に、専門家(士業)に何度でも相談できる「クラウド顧問サービス|Bizer(バイザー)」に会員登録して、会社設立の手続きをした場合
Bizerの月額利用料:
会社設立前の支出ですが、設立のためだけに必要となる支出ではないため、創立費ではなく「支払手数料」などの勘定科目で費用として計上。帳簿(会計ソフトなど)に記帳するときは、設立日以前の日付では記帳できないため会社設立日の日付で記帳します。
【参考コラム】
クラウドサービス利用料の仕訳(勘定科目)はどうしたらいい?
公証役場の定款認証、設立登記の登録免許税:
「創立費」として計上します。帳簿(会計ソフトなど)に記帳するときは、会社設立日の日付で記帳します。
発起人(出資者)の印鑑証明書:
諸説あり判断が分かれるところですが、発起人はそもそも会社設立のために行動しますし、発起人の印鑑証明がなければ、法人の設立には至らないことを勘案すると、その行為は発起人個人の私的な支出というよりも、むしろ会社設立のために必要な支出であると評価できることから、筆者は創立費として計上できるものと考えます。帳簿(会計ソフトなど)に記帳するときは、会社設立日の日付で「創立費」として計上します。
法人印鑑の購入:
開業準備のために特別に支出した費用ではないため、「開業費」ではなく「備品費」「消耗品費」「雑費」などの勘定科目で費用として計上。帳簿(会計ソフトなど)に記帳するときは、会社設立日の日付で記帳します。
創立費、開業費以外でも開業前の新設会社の事業に関する支出も経費にできる
原則として、事業年度以外に発生した売上や費用はその事業年度に計上することができません。
ただし、事業年度以外に発生した支出であっても、
-
- 会社の設立のための費用であれば、「創立費」で計上することができる。
- 「開業費」は、会社設立日以降の開業準備のための費用しか計上しか計上できない
というお話をしてきました。
では、
「創立費以外に会社設立前の支出は費用にできないのか?」
「設立前に支払った開業準備のための支出は費用にできないのか?」
というと、そうではありません。
例外的に、新設する会社の事業に関する支出であれば、設立前の支出であっても「創立費」以外の科目で費用として計上することができます。例えば、前述した「Bizer月額利用料」や「設立前に行った取引先との会議費」などのように、事業に関する支出であれば、設立前の支出であっても費用として計上することが認められます。
また、設立前に支払った開業準備のための支出も「開業費」にはできませんが、新設会社の費用として計上することができます。
※会社設立前の期間とは、一般的に3ヶ月程度(場合によっては6ヶ月程度)と考えられています。それよりも古い支出の場合は、新設会社の費用として認められないこともあります。
【参考】
国税庁:法人の設立期間中の損益の帰属
2-6-2 法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする。ただし、設立期間がその設立に通常要する期間を超えて長期にわたる場合における当該設立期間中の損益又は当該法人が個人事業を引き継いで設立されたものである場合における当該事業から生じた損益については、この限りでない。
創立費、開業費の任意償却で節税対策できる!?
創立費と開業費は、会社が赤字、黒字の財政状態によって、会計処理を使い分けると節税のメリットが得られることがあります。
創立費、開業費の会計処理方法は2種類ある!?
創立費、開業費の会計処理についてまとめると以下の通りです。
会計処理には、「会計ルール」と「税務ルール」があります。
※「繰延資産」とは
費用として支出した金額のうち、支出の効果が1年以上に及ぶもので、資産計上後、支出した年度の費用として全額計上するのではなく、翌期以降に繰り延べることが認められている資産です。
※「償却」とは
資産計上したものを、毎年、数年に渡って費用計上する手続きをいいます。
原則としては「会計ルール」で処理することとなっていますが、中小企業の場合は、税務のルールに則って「好きな事業年度に好きな金額だけ」費用処理することができます。このため、設立間もなく、まだまだ多額の利益が見込まれない事業年度においては費用化せず、利益が多額に計上されたタイミングで費用化することで節税することができます。
まとめ
創立費、開業費は、将来いつでも費用にすることができます。会社の利益が出てから費用にすることもできるため節税対策に有効です。ただし、創立費、開業費に計上できる範囲は限定されているため注意が必要です。
また、創立費、開業費に計上できない支出でも(設立前の支出であっても)、新設会社の事業に関する支出であれば費用として計上できます。
創立費・開業費は、通常の会計処理とは大きく異なる取扱いをする特殊な勘定科目です。会社の財政状態や経営成績を不正に歪めた決算書が作られてしまう、いわゆる粉飾・逆粉飾決算が行われる可能性があると考えられることもあるため、その取扱いには十分に注意を払いながら会計処理を行いましょう。
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八代醍 和也
公認会計士・税理士。税理士法人、監査法人勤務を経て、2016年より八代醍会計事務所を開業。税理士法人では、中小企業から年商30億円の法人税申告、所得税、資産税申告業務を経験。監査法人では上場会社、大手・中堅会社の法定監査やコンサルティングを経験。 現在は会計・税務両面の経験を活かし、クライアントに寄り添った会計サービスの提供をモットーに各種コンサルティングに従事。