メニュー

労働管理が不要ってホント?「専門業務型裁量労働制」の間違いやすいポイントを解説!

働き方の多様化やITベンチャー等の起業増加に伴い、「裁量労働制」を適用する企業が増えてきました。
裁量労働制は、あらかじめ「その業務に通常必要な労働時間」を定め、実際の労働時間に関わらず、定めた時間分労働したものとみなす制度です。

労働時間の管理や残業代支給を行わなくていい制度」と誤解されることがありますが、今回は、IT企業におけるエンジニアやデザイナーなどの職種にも適用されることのある「専門業務型裁量労働制」について、間違いやすいポイントを解説します。

裁量労働制だから残業代を支払わなくて良い?

専門業務型裁量労働制は「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定書であらかじめ定めた時間(以下、協定時間)働いたものとみなす制度」です。

しかし、裁量労働制であれば即ち残業代の支給対象外となる訳ではありません。

残業代を支払い有無のポイントとなるのは労使協定書に記載された「協定時間」です。
協定時間が1日8時間以上であれば、8時間を超える時間数に応じて残業代を支払う必要があります。
例えば、1日9時間の協定時間を設定した場合、1時間分の時間外割増を必ず支払う必要があります。
また、当然のことながら、労使協定書を作成しなければ裁量労働制の対象とすることはできません。

「あらかじめ定めた時間」が1日8時間未満であれば残業代は支払わなくて良い?

労働基準法で定める割増賃金には、「時間外割増」、「深夜割増」、「休日割増」の3種類があります。
裁量労働制適用者に対する時間外割増の取り扱いは前述の通りですが、協定時間の長さに関わらず、深夜割増、休日割増の2つは裁量労働制適用者に支払う必要があります。
あくまで協定時間で「みなす」ことが出来るのは1日あたりの労働時間の長さだけです。

深夜労働、休日労働を行った場合には、実際の労働時間に応じた割増賃金を支払わなければなりません。

深夜労働、休日労働のみならず、休憩、年次有給休暇についても、通常通り、労働基準法に従う必要があります。
なお、休憩時間の長さは「1日あたりの協定時間が6時間を超え8時間までであれば45分以上」「8時間を超える場合は1時間」というように、協定時間を基準として決定します。

<ワンポイント>
前述の通り、1日に1時間でも出勤すれば協定時間の長さを働いたこととみなされ、深夜労働を行った場合には深夜割増の支払対象となります。
そのため、従業員にとっては深夜に出勤した方が得ということにはなりますが、会社側が深夜労働を制限することが可能です。
例えば、労使協定書の中で「裁量労働適用者が、午後10時から午前5時までの深夜に勤務する場合には、事前に所属長に申請し、許可を得なければならない」といった定めをすることは法律上問題ありません。
休日出勤についても同様に、労使協定に定めることで事前許可制とすることが可能です。

裁量労働制であれば労働時間を記録しなくて良い?

会社は全ての裁量労働制適用者の労働時間を記録する義務があります。
出勤日、出勤時間、退勤時間、休憩時間を記録し、労働基準監督署等の調査があった際には速やかに開示しなければなりません。

あくまで裁量労働制は、実際の労働時間を、協定時間に「みなす」ことが出来る制度であり、実際の労働時間の記録が免除される訳ではありません。
実際の労働時間を記録し、長時間労働による健康障害が疑われる裁量労働制適用者に対しては、会社として健康確保の措置を講じる必要があります。

また会社は、裁量労働制適用者の労働時間の状況と合わせて、健康・福祉確保措置の状況、対象労働者からの苦情処理措置の状況を常に記録し、裁量労働制の協定期間終了日から3年間保存しなければなりません。
通常の労働者の場合、出勤簿等の労働時間の記録は出勤日から2年間の保管が労働基準法により義務付けられていますが、裁量労働制適用者と保存期間が異なる点にも注意が必要です。

裁量労働制であれば出勤しなくても良い?

裁量労働制の対象労働者であっても会社に出勤しなくても良い訳ではありません。
裁量が認められているのは1日の業務における手段や出退勤時間に限られます。
したがって、所定労働日に出勤させる裁量権は会社側にあります。
対象者が欠勤をした場合、会社は1日分の基本給を減額することが可能です。
裁量労働制には「遅刻や早退の概念はないが、欠勤の概念は存在する」ということを覚えておきましょう。

裁量労働制を全社員に適用できるか?

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」の他にも「企画業務型裁量労働制」がありますが、いずれの制度に関しても、一律に全社員に適用させるということはできません。
それぞれに要件があり、それを満たした従業員に制度適用される形となります。

まず、専門業務型裁量労働制の適用対象ですが、こちらは対象となる19の業務が決まっており、これらの業務を行う従業員が制度の適用対象者となります。
具体的な業務については以下の厚生労働省のサイトをご確認下さい。
参考:専門業務型裁量労働制

一方、企画業務型裁量労働制の対象業務は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務」に限られます。
ただし、企画立案に携わっていたとしても、企画立案業務に付随する事務や、役員等の上長から受けた指示に従って業務を行うような立場の方は企画業務型裁量労働制の適用対象とするべきではありません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
裁量労働制」を適用する場合でも、労働時間管理などの義務が免除されるわけではなく、社員の健康管理等の面でも会社がきちんと管理を行わなければいけないことがおわかりいただけたかと思います。

会社と従業員がお互い気持ちよく働くためにも、制度を正しく理解して、職場の環境作りの一環としていただけたらと存じます。

リンク・アクト社会保険労務士事務所

「IT×社労士」をコンセプトとした新宿西口駅前の社会保険労務士事務所です。 スタートアップ企業から数百名規模まで、人数を問わずIT企業の労務顧問を数多く経験しています。 事務所ウェブサイトは代表社労士が自ら作成しています。 是非一度ご覧ください。 https://linkact.jp/