不利とならないNDA(秘密保持契約)の結び方とは?ひな形の使い回しは危険!
様々な業界がある中、特にIT企業において取引を開始するにあたり、ほとんどの企業が「業務委託基本契約書」と「NDA(秘密保持契約)」を締結する傾向が多く見受けられます。
例えば、ITベンチャーで「WEBサイトの開発受託」や「事業コンサルティング」などの契約が決まりそうなときに取引先から「正式な契約前にNDA(秘密保持契約)を締結してください。」と言われたことはないでしょうか?
このNDA、よくわからないからといって取引先に言われるがままに、ハンコを押してはいけません!
契約後に不利とならないためにも「NDAを結ぶ前に知っておくべきこと」について、100社以上もの契約書作成をされるなど、豊富な実務経験と実績のある契約書作成の専門家「行政書士 わたなべ法務事務所 渡邉茂実行政書士」に教えていただきました。
NDA(秘密保持契約)とは?
「営業秘密」に関しては、「不正競争防止法」という法律で保護が規定されています。
しかし、「営業秘密」の該当性のハードルは高く、「営業秘密」として保護されるためには、以下の3つの要件を全て満たしていなければなりません(不正竸争防止法2条6項)。
-
- 秘密管理性
- 有用性
- 非公知性
「営業秘密」に該当しない情報は、「不正競争防止法」では保護されないため、企業が自社の情報を保護するためには、NDAによって保護する必要が生じます。
企業自らが、情報保護を積極的に行う契約がNDAです。
NDAを締結すれば業務委託契約書は必要ないのか?
Designed by Pressfoto / Freepik
実際に取引を受注した際には、NDAとは別に「業務委託契約書」を締結する必要があります。「業務委託契約書」は、納期の遅れや不履行があったときの損害補償義務などについて取引の実務に即した条項を規定したものです。
一般的な契約書のようにNDAにも収入印紙は必要?
Designed by Jannoon028 / Freepik
【参考コラム】
収入印紙を貼る必要がある書類については、以下のコラムをご参照ください。
なぜ契約書に収入印紙を貼る必要があるの?貼り忘れたときはどうなるの?
NDAのフォーマットは1社に1つあればOK?
企業が情報を開示する立場なのか、情報を開示される立場なのか、それとも両方に該当する立場なのかによって、NDAへのアプローチが変わってきます。
また、NDAでは秘密保持義務を負うのが「契約当事者双方の場合」と「契約当事者一方のみの場合」のケースがあります。
情報開示者として、相手方企業にその情報の秘匿性を守らせる(義務を課す)内容と契約当事者双方がそれぞれの情報を守らせ、その上で相手企業の情報を守る内容とでは違ってきます。
フォーマットを準備して、NDAの締結に迅速に対応したいという状況は十分に理解できますが、自社の立ち位置、NDAを必要とする業務の内容、取り扱う情報の内容などによってNDAの内容が変化します。
例えば、自分が秘密情報を自分が開示する立場の場合は、秘密情報の定義は広くした方が有利であったり、一方、自分が開示される立場の場合は、秘密情報の範囲の定義を狭くした方が有利であったりするからです。
フォーマットにこだわらず、臨機応変に内容の変更に対応できることこそが企業としてNDAの締結に求められる基本姿勢ではないでしょうか・・・。できれば、このあたりは専門家のアドバイスを受けることをオススメします。
取引先のNDAで注意すべきポイントは?
(1)秘密情報の定義
NDAで守られる秘密情報の内容を確認するべきです。
秘密保持義務を負わせる側からは、「あらゆる情報」を秘密情報と定義して秘密保持義務を課したいところであるが、秘密保持義務を負わされる側からは、秘密情報が限定されていることが、秘密保持義務を遂行する上で都合が良いと思われます。
秘密情報の定義は、「書面で秘密情報である旨の明示があるものに限り、口頭で開示された場合でも一定期間内にその内容を書面にして秘密情報である旨の明示をした場合に限り秘密情報として取り扱う」という趣旨の規定がなされているものが多く、この場合は、開示する側もある程度の管理責任を負うもので、開示される側では秘密情報の判断が明確で扱いやすいように思います。
(2)開示目的の明確化
秘密情報の開示目的を明確に限定し、目的以外での利用を禁じ、二次的な情報の漏洩を防いでおく必要があります。
(3)開示範囲の明確化
開示された情報が、NDAがあるからと開示を受けた企業内で通常の情報と同じように扱われてはリスクが大きいと考えられます。
重要な情報であれば、NDAが締結され開示を受けた企業内においても必要以上に広がることを避ける開示範囲の限定が必要です。
また、関連会社や子会社、孫会社などへの開示も必要に応じて制限すべきです。これらの規定が、第三者への秘密情報の漏えいのリスクを下げるものとなります。
(4)複製の取り扱い
開示範囲と同様に、開示された秘密情報の複製に関し、禁止する、限定する、管理を徹底するなどの規定が必要です。
秘密情報の複製を無制限に認めていては、その情報が秘密として守られているとは言えません。
(5)期間の確認
契約期間は、条項としても独立して設けられているでしょうから、きちんと確認されていると思いますが、契約終了後の扱いとして秘密保持義務をどれくらいの期間負わなくてはいけないのかは確認が必要です。
「秘密保持義務は、本契約終了後も有効とする。」といった規定では、未来永劫、永遠に秘密保持義務を負わなくてはなりません。
開示される秘密情報の内容にもよりますが、永遠に秘密情報としての有効性が失われないとは考えにくいので、ある程度の期間で秘密保持義務が解除されるよう調整されるべきと考えます。
(6)NDAの存在は秘密情報か・・・
場合によっては、当事者間で業務の関係性があること(NDAの存在そのもの)が秘密情報として扱う必要がある場合もあります。
「秘密情報の定義」において「本契約の存在も秘密情報に含まれる」などの記載がある場合には、署名捺印する以前の取り扱いについても相当の配慮が必要になります。
「NDAは、とりあえず締結しておけば安心」と考えられる傾向があるかもしれませんが、秘密として扱われるべき情報があるのか、業務の中でどの程度の秘密保持が必要なのか、現実に秘密情報の管理が可能であるかなどの視点を持って、内容の検討を行ってください。
トラブル防止のために契約書は専門家に確認しよう
契約書を作成しなければならない場合や、自社または取引先が作成した契約書の内容を精査・修正する必要がある場合は、契約後、不利とならないためにも専門家へ依頼することをお勧めします。
Bizer(バイザー)のユーザー様であれば、「契約書作成」(36,000円[税抜]から)、「契約書内容チェック」(24,000円[税抜]から)のサービスをご利用になれます。
詳しくは、Bizer[契約書作成サービス]まで
渡邉 茂実
行政書士 わたなべ法務事務所 特定行政書士。レコード会社勤務、音楽教室経営を経て、2013年より行政書士わたなべ法務事務所を開業。著作権を中心とした知財関連法務、インターネット法務を得意分野として、様々な企業法務のサポートを行っています。