メニュー

支払った税金が戻ってくる!?赤字を救う「欠損金の繰戻しによる還付」とは?

以前のコラム「スクープに怯えるな!税務調査について調べてみた!」で欠損金の繰戻しによる還付を申請した会社は税務調査が入りやすいというお話がありました。では、具体的に「欠損金の繰戻しによる還付」とはどういう制度なのでしょうか。一緒に学んでいきましょう。

欠損金の繰戻しによる還付はどういう制度?

「欠損金の繰戻しによる還付」制度とは、前期において黒字で法人税を納付した法人が、経営悪化などで今期赤字になってしまった場合、前期に納付した法人税の還付を請求することができる制度です。

簡単にいうと、

これまで黒字経営だったけれど、今期は赤字を出してしまった。そんなときに、税務署に「欠損金の繰戻しによる還付」の申請をすると、前期に納付した法人税から今期の赤字に相当する法人税の一部を戻してもらえるという制度です。

※なお、税務上では、会社の赤字のことを「欠損金」と言います。

ただし、この制度を利用すると税務調査が入る可能性も高くなるとも言われてます。注意点などもふまえて制度の詳細について見ていきましょう。

対象となる法人とは?

対象になる法人は、資本金が1億円以下の法人に限定され、前期までは黒字で今期から赤字になってしまった青色申告法人が対象となります。

詳しい条件は、次の通りです。

(1)、(2)どちらにも該当する法人が「欠損金の繰戻しによる還付」を適用できます。

【対象となる法人】

(1)資本金が1億円以下の法人(資本金が5億円以上の親会社の100%子会社
等である場合には対象となりません。)

(2)下記の要件をすべて満たしている

    1. 黒字の事業年度から赤字の事業年度の前事業年度までの各事業年度について、連続して青色申告書である確定申告書を提出していること。
    2. 赤字の事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限までに提出していること。
    3. 上記2.の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること。

国税庁:No.5763 欠損金の繰戻しによる還付

法人税の還付請求、どういう手続きが発生するの?

青色申告で確定申告する際に、「確定申告書」とともに「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出する必要があります。

いくら法人税が戻ってくるのか?(還付金額の計算方法)

次の場合を例にして、計算の流れを確認していきましょう。

    • 前期の売上が「1,000万円」の黒字
    • 前期に納付した法人税が「300万円」
    • 今期の売上が「△800万円」の赤字

%e9%82%84%e4%bb%98%e6%b3%95%e4%ba%ba%e7%a8%8e

今期に繰り戻し還付が請求できる法人税は、次の計算式に当てはめます。

今回のケースでは「240万円」が還付金として戻ってきます。

「欠損金の繰戻しによる還付」を受けるときの注意点

「欠損金の繰戻しによる還付」の制度を利用した場合は、次の点に注意してください。

    • 法人税のみ還付する制度のため、法人事業税や法人住民税は戻ってこない
    • 法人住民税に関しては「繰越控除」を受けることができる
    • 税務調査が入る可能性が高い
Q:「欠損金の繰戻しによる還付」制度の後に、「法人住民税の繰越控除」制度を利用すると、翌期以降の法人住民税を減税してもらえる?

一般的には、この「欠損金の繰越しによる還付」制度は、法人税のみに適用され、法人事業税や法人住民税の還付はされません。ただし、法人住民税に関しては、会社の赤字が生じた翌期以降に支払う税金(住民税)を減少させる「繰越控除」という減税処置を受けることができます。

簡単にいうと、

    • 欠損金の繰越しによる還付」制度は、前期に支払った税金(法人税)を戻してもらえる制度
    • 住民税の繰越控除」制度は、翌期以降の税金(住民税)を減らしてもらえる制度

ということです。

法人税において「欠損金の繰戻しによる還付」を受けた場合は、その還付された法人税を基礎として計算された金額を住民税の欠損金(赤字)として認識し、翌期以降に繰り越すことができます。翌期以降において住民税が発生した場合には、繰り越された欠損金を充当したうえで住民税を計算することになります。

住民税の「繰越控除」を受ける場合は、法人税の「欠損金の繰戻しによる還付」を受けた翌期の確定申告時に、確定申告書に以下の書類を添付して提出してください。

    • 控除対象還付法人税額又は控除対象個別帰属還付税額の控除明細書」(第六号様式別表二の三)
    • 欠損金の繰戻しによる還付請求書」(写し※任意の提出となります。
Q:「欠損金の繰戻しによる還付」を受けると、税務調査が入る可能性が高くなる?

本制度を利用すると、税務調査が入る可能性が高くなります。というのも、税務署に還付請求書の提出があったときには、所轄の税務署長により、その請求の基となった赤字について調査して、法人税の還付手続き(還付されない場合は理由を書面により通知)をすることになっているからです。

必ずしも税務調査が行われるわけではありませんが、これらの手続きから税務調査に入られる可能性は高くなります。

そのため、繰り戻し還付を行う場合は、税務調査のことも念頭において検討する必要があります。

※簡略化して制度の解説をしているため、会社の解散などの事実があった場合や諸処の条件などによって異なることもございます。「欠損金の繰戻しによる還付」制度をご検討される際には、税理士等の専門家にご相談ください。

【関連コラム】
スクープに怯えるな!税務調査について調べてみた!

三浦 勝

MARC税理士事務所 税理士(東京税理士会麻布支部所属 登録番号115770) 個人税理士事務所、国内系税理士法人、外資系税理士法人を経て、2015年6月に独立開業。現在まで1,000社を超える法人・個人の申告に携わる税務申告のエキスパート。