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『雇用契約書』の書き方で押さえておくべき5つのポイントとは!?入社後の労使トラブル回避策!

雇用契約書の書き方・気を付けたい5つのポイント

社員を雇用する際には、雇用契約を結ぶことになりますが、雇用契約書の書き方について、スタートアップ企業が特に気を付けておきたい5項目を、本コラムでは解説していきたいと思います。

1.「雇用期間」の記載

第1は、「雇用期間」の記載についてです。
雇用契約の期間を無期にするのか有期にするのかということなのですが、とくに次の2点に留意してください。

① 「試用期間」は有期契約ではない
② 有期契約を結ぶ場合は「契約の期間」と「更新の条件」を雇用契約書に明記

①「試用期間」は有期契約ではない

まず、「試用期間」は有期契約ではないということです。

「正社員(無期契約)とする。ただし、当初3か月は試用期間とする」というような記載の雇用契約書をよく見かけますが、誤解をしてはならないのは、「試用期間でしっくりこなかったので、本採用を拒否する」ということは簡単には認められないということです。

法的に試用期間は独立した有期契約ではなく、あくまでも無期契約は入社初日から成立していて、当初3か月は「やや解雇規制が緩和されますよ」という意味合いにすぎません。

したがいまして、「当初3か月で相性を見極めたい」ということであれば、試用期間ではなく、3か月の「有期契約」をまずは結ぶようにしてください。3か月の有期契約が無事に終了したならば、改めて正社員としての無期契約を結ぶというイメージです。

②「契約の期間」と「更新の条件」を雇用契約書に明記

次に気を付けたいのは、有期契約を結ぶ場合は、「契約の期間」と「更新の条件」を雇用契約書に明記しておくことです。

これらの条件の明示は労基法等でも求められていることですが、有期契約の更新時のトラブルを防ぐためにも、非常に重要なポイントです。会社が「次回の契約は更新しません」と通告した際、社員から「理由を教えてください」と言われることがありますが、雇用契約書に更新基準が定められていれば「あなたは、○○の基準に達しなかったので更新をできません」と説明をすることができます。

しかし、何も更新基準が定められていなければ、いくら会社が説明をしても、本人からしてみれば「後出しジャンケン」的に映ってしまい、「そんな話は聞いていないので納得できません!」と、労基署などに駆け込まれてトラブルに発展してしまう恐れがあります。

2.「フレックスタイム制」や「裁量労働制」を採用する場合の記載

第2は、「フレックスタイム制」や「裁量労働制」を採用する場合の記載です。
スタートアップでは、社員に自由な環境で力を発揮してもらうため、フレックスタイム制や裁量労働制を適用したいと考える会社も少なくないでしょう。

フレックスタイム制や裁量労働制を適用する場合は、その旨を雇用契約書に記載することが必要です。記載がない場合は、何かの事情で社員と裁判になってしまった場合、会社が口頭で「裁量労働制だった」と主張しても、裁判官は認めてくれません。実労働時間で換算した残業代を全て支払うことになってしまいます。また、労働基準監督署の調査があった場合にも指摘を受けてしまうでしょう。

ですから、フレックスタイム制や裁量労働制を適用する場合は、必ず雇用契約書にその旨を明記するようにして下さい。

なお、フレックスタイム制や裁量労働制を適用する場合には、上記の雇用契約書への明記に加え別途「労使協定」を取り交わす必要がありますので、こちらも忘れないようにして下さい。また、フレックスタイム制は全社員に適用できますが、裁量労働制は「システムコンサルタント」「ゲームの企画開発」といったような法律で認められた一定の高度専門職にしか適用できませんのでご注意ください。

3.「固定残業代」の記載

第3は、「固定残業代」です。
固定残業代を適用する場合は、絶対に雇用契約書への明記が必要です。雇用契約書で明記がされていない固定残業代は、法的には無効です。

「基本給には固定残業代として8万円(40時間分)を含む」というように、金額と時間数の両方を明記しておくことがベストです。両方記載することが難しい場合は、金額か時間数か、少なくともどちらか一方だけは必ず記載するようにしてください。

また、役職手当や営業手当などを固定残業代として支払う場合も、「役職手当は固定残業代として支払う」という但し書きを忘れないようにしましょう。

4.「退職」や「解雇」の記載

第4は、「退職」や「解雇」です。
退職に関しては、突然の退職を防ぐために「自己都合退職の場合は○日以上前に申し出ること」というルールを定めておきたいものです。また、定年や再雇用制度についても記載しておく必要があります。

そして、トラブルが起こりやすいのは、自己都合退職や定年といった通常の退職以外、すなわち「普通解雇」「懲戒解雇」「音信不通による当然退職」「私傷病の休職期間満了による当然退職」といった、イレギュラーな退職の場合です。

どういった場合に懲戒解雇になるかなどは、項目が多すぎて雇用契約書には書ききれないので、通常は「解雇等について就業規則の定めによる」などと、就業規則の定めに委任することが一般的です

この点、社員を1名でも雇用したら就業規則を作成するのがベストなのですが、予算等の関係で今すぐ就業規則を作成することが難しい場合は、書ける範囲で、「こういう場合は懲戒解雇になる」とか「○日以上音信不通の場合は当然退職とする」とか、発生する可能性が高そうなリスクに関してピックアップして雇用契約書に付記しておくと良いでしょう。

5.「署名・押印」

第5は、「署名・押印」です。
雇用契約書とよく似たものに「労働条件通知書」というものがあり、「雇用契約書と労働条件通知書の違いは何か」とか「両方作成しなければならないのか」といった質問を受けることがあります。

「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いとは?

この点に関してどう理解すれば良いのかといいますと、記載される内容は両者ほぼ同じなのですが、

  • 雇用契約書は労使双方が署名押印を取り交わすもの
  • 労働条件通知書は会社が社員に一方的に交付するもの

という点が大きな違いです。

また、雇用契約書か労働条件通知書、どちらか一方だけを作成すれば、労働基準法などの法的要請はクリアできます。

そうしますと、確かに労働条件通知書のほうが、署名押印を取り交わす手間は省けるので一見楽そうなのですが、将来、万一何か労働トラブルが発生して裁判等になった場合のことを考えると、労働条件通知書では「そんな通知書もらっていません」と否認をされてしまうリスクがあります。

雇用契約書ならば「あなた、ここに署名押印してるじゃないですか」と反論することができます。したがいまして、労務上のリスク管理の観点を踏まえると、ひと手間かけてでも、雇用契約書を結んでおいたほうが良いという結論になります。

まとめ

ここまで雇用契約書のポイントを説明してきましたが、実務上の労務相談を受けていると、「最初から雇用契約書をちゃんと作っておけば、こんなトラブルにはならなかったのに!」と感じてしまうこともしばしばあります。

労働トラブルが発生してしまうと、経営者も対応に時間や工数をとられ、本来やるべき仕事にエネルギーを向けられなくなってしまいます。安心して本業に邁進するためにも、是非、雇用契約書はしっかりと取り交わしておきたいですね。

榊 裕葵

ポライト社会保険労務士法人 社会保険労務士。上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務後、社会保険労務士として独立。勤務時代、常に経営者の側で仕事をしてきた経験も活かしながら、スタートアップ企業の労務管理体制の構築や、助成金申請の支援を積極的に行っている。