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トラブルになった後では遅い!事業承継は家族信託の活用を検討しよう

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長年会社を経営してきたけど、自分も高齢になってきたし、そろそろ事業継承についても考えなきゃいけない──
だけど、通常の相続対策だと株式譲渡によって自分で議決権が行使できなくなったり、株式も分散する恐れがあるのでなにか良い方法がないかな…

最近では、比較的小規模の会社でもそのようなお悩みを持つ経営者の方が増えてきているようです。

平成19年の信託法改正により、財産管理・資産承継の一手法として「民事信託(家族信託)」が活用されています。
今回は特に、会社の事業承継を目的として利用される家族信託をご紹介いたします。


 

そもそも民事信託ってなに?

信託」というと、一般に個人または会社(=委託者)所有の資産(金銭、不動産、株式等)を信託銀行が管理、運用し、その利益を受益者(信託設定時点では、委託者)が得るというイメージが強いと思います。
図式にすると以下の通りです。

上記のようなスキームを、民事信託と比較して「商事信託」といいますが、民事信託は、自分の財産を資産管理のプロ(=信託銀行)に任せるのではなく、信頼できる家族に、財産を託し、費用を抑え、柔軟に資産管理、資産承継を行う方法をいいます。

具体的な事例を見てみよう

では、どのような場合に、民事信託を活用する場面がでてくるのでしょうか。
今回は特に、民事信託を活用した株式会社の株式の承継事例をみていきましょう。

例)株式会社A商事のケース(カッコ内は年齢)

株式会社A商事は、トラスト太郎が創業した会社です。事業も安定しており、売り上げも少しずつ伸びています。
今は、トラスト太郎、娘・信託花子夫婦(トラスト太郎が代表取締役社長、信託花子夫妻は取締役)、孫のトラスト長太(従業員)が会社に携わっています。
息子・トラスト一郎は、海外での仕事が多くなかなか実家に帰ってきません。

現在、トラスト太郎は、花子夫婦に株式を譲りたいと考えていますが、花子夫妻には子供がいないため、株式を花子に移転させても、花子、吾郎が亡くなってしまえば、場合によっては、相続により吾郎の親又は兄弟姉妹に株式が移ってしまう可能性があります。
幸いにも孫・トラスト長太が、この会社を継ぎたいと考えているようで、会社内で従業員として働いています。
最近、トラスト太郎は高齢により体力が衰えていて、思うように体が動きません。
今後、万が一、自分が、認知症を発症してしまえば、株式の議決権を行使することもできなくなり、会社がどうなってしまうのかとても心配しています。

このような場合どうしたらよいでしょうか。

経営者トラスト太郎の不安

トラスト太郎は以下のような不安を抱えていました。

①仮に、株式を花子夫婦に移転させても、花子夫婦は、トラスト長太にその株を渡してくれるのか。
②自分が存命中に、認知症を発症した場合、議決権はだれが行使するのか。

少子高齢化に伴い、このようなケースが数多く存在します。こういった場合に、民事信託を活用して、トラスト太郎の要望をかなえることができるのです。

民事信託を利用した事業承継事例


※当事例において、信託の終了事由を、トラスト太郎の死亡等に設定し、信託財産の権利帰属先をトラスト長太にする。

上記のような方法により、受託者を信託花子又はトラスト長太にして、判断能力があるうちは、トラスト太郎の指図により受託者が議決権を行使し、判断能力が低下した段階で、議決権行使を受託者に任せることができます。
この点において、判断能力が低下した後に選任される後見人よりは、柔軟かつ迅速に、会社の運営を行うことができます。

また、トラスト太郎に相続が発生した場合の信託財産帰属先に、トラスト長太を設定しておくことで、信託契約に遺言機能を持たせながら円滑に事業を承継することができます。(=遺言代用信託)
後見制度を利用しただけでは、承継先を指定することはできず、遺言、譲渡契約等を除き、トラスト一郎と信託花子により遺産分割協議をしなければなりません。

尚、受託者を信託花子又はトラスト長太と選択的にしたのは、トラスト長太がまだ若いため、いきなり株式を渡されても、株主として十分な管理ができるのか、ということを踏まえてのことです。

民事信託は、契約締結後の10年、20年後を見据えて設計するため、例えば、トラスト長太が他の職業に就きたい等の意向を示した場合には、委託者に意思に即した内容で柔軟に対応できる契約書を作成する必要があります。
そうかといって、簡単に変えられる契約書を作成しても意味がありませんので、作成に当たっては十分な検討が必要です。

最後に

いかがでしたでしょうか。
今回は、民事信託の活用事例をご紹介しましたが、事業承継には民事信託の他、種類株式の設計、遺言、死因贈与、任意後見制度等々、個々の事情によって様々な方法があります。
ご注意いただきたいのは、民事信託がすべての事例において万能ではなく、民事信託を設計しても、身上監護の部分で後見人が必要となったり、或いは、遺言書の作成が必要なケースもありうるということです。
また、設計にあたっては、税務上の観点からも十分に検討することが必要です。

自分の仕事をどのように未来に受け継いでいくのか。
未来のために今できることは経営者の手の中にあるのかもしれません。

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清水 歩 しみず あゆむ

清水 歩

司法書士。東京司法書士会所属。簡裁訴訟代理等関係業務認定会員。千代田法務会計事務所 共同代表。NPO法人事業承継相続研究会会員。登記業務はもとより事業承継、組織再編等の会社法務の相談、相続手続き、一般民事事件など多方面で適格なアドバイスを提供している。