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一人会社でも必要!?初めて社会保険に加入するときの注意点とは?

はじめに

本コラムは、主にこれまで個人事業主として国民健康保険や国民年金に加入していた方が法人成りした場面や、起業家の方が最初から法人を立ち上げて事業を開始した場面を想定し、社会保険の加入に関する正しい知識をお伝えするために執筆したものです。

社長(役員)1人でも社会保険の加入は義務か?

社会保険労務士として仕事をしていると、自分の会社を立ち上げたばかりの起業家の方から、「まだ自分1人だけの会社なのですが、社会保険には入ったほうが良いですか?」と質問を受けることがあります。

その答えは「YES」であり、理由としましては、社会保険は法人事業主の場合、社長1人の会社であっても法律上の加入義務があるからです(役員報酬が0円の場合を除く)。

なお、「社会保険」の中には健康保険と厚生年金の2つが含まれていますが、時々、「保険証は欲しいので健康保険に加入したいが、年金はアテにしていないので厚生年金は入りたくない」という相談を受けることもあります。この点に関しては、健康保険と厚生年金はセットで入らなければならないものなので、片方だけ外すことは不可能です。

個人で加入していた国民健康保険・国民年金の脱退手続きは?

さて、社会保険に加入しますと、それまで加入していた「国民健康保険」や「国民年金」を脱退することになりますが、脱退ために何か手続が必要なのかという疑問が出てくると思います。この点、順番に説明をしていきましょう。

国民健康保険の脱退手続き

まず、国民健康保険についてです。社会保険への加入が完了しましたら、健康保険の保険証が発行されますので、その保険証を持って、居住地の市区町村の役所へ行けば国民健康保険の脱退手続を行うことができます。

もし、脱退の手続を忘れてしまうと、国民健康保険からの保険料の請求が続いてしまいますので、二重払いにならないように気を付けて下さい。なお、社会保険に加入した後の期間の国民健康保険料を間違えて支払ってしまった場合は、市区町村の役所に相談すれば還付の手続の方法を教えてくれます。

国民年金の脱退手続き

次に、国民年金に関してですが、特段の脱退手続は必要ありません。国民年金のデータも厚生年金のデータも日本年金機構の中で基礎年金番号により一元管理されていますので、社会保険に加入したら、国民年金から厚生年金に移行したと自動的に種別変更されるからです。

なお、国民年金の保険料を前納している場合や社会保険に加入した後の期間の分の保険料を間違えて支払ってしまった場合は、還付を受けられます。社会保険に加入後、数か月すると、日本年金機構から払い過ぎた国民年金保険料の還付を受けるための書類が届きますので、その書類を記入して、日本年金機構へ返送してください。

健康保険の保険証が届くまでの対応

社会保険に加入するための申請書類が受理されてから健康保険の保険証が手元に届くまでは、年金事務所の込み具合にもよりますが、最長で1か月くらいかかってしまうこともあります。

社会保険にはじめて加入する場合は、まずは会社自体の審査がありますので、既に社会保険に加入済の会社に新入社員が入ったので追加で保険証を発行する場合よりも時間がかかるのです。

初めて社会保険に加入した会社は要注意

また、社会保険に加入済の会社であれば、新入社員がすぐに病院にかかりたい場合、年金事務所の窓口に行けば「健康保険被保険者資格証明書」という、仮の保険証を発行してもらうことができるのですが、はじめて社会保険に加入する会社の場合は、仮保険証の発行を受けることはできませんのでご注意ください。

そこで、健康保険の保険証が届くまでの間、手元にある国民健康保険の保険証を使いたくなってしまうかもしれませんが、社会保険への加入を申請した日以降、国民健康保険の保険証を使ってはいけません。

確かに、社会保険に加入を申請した日以降も、国民健康保険の保険証を見せれば3割負担で治療を受けられますが、病院が残りの7割の医療費を国民健康保険の運営元である市区町村に請求した際に無効な保険証を使ったことが発覚し、10割負担を求められてしまうからです。

もちろん、いったん10割負担した後、改めて健康保険に還付請求をすれば7割分は戻ってきますが、「10割支払って、改めて7割取り戻す」という手続は非常に手間がかかりますので、社会保険に加入することとなった日以降は、国民健康保険の保険証は使わないようにして下さい。

では、どうすれば良いかということですが、現在社会保険の加入手続をしていて、保険証の発行待ちであることを病院の受付窓口で伝えれば、病院によっては、指定する期日までに保険証を提示することを条件に3割負担や、10割負担よりも安い金額の預り金で診療をしてもらうことができます。このあたりは、病院の判断になりますので何とも言えませんが、正直ベースで、窓口で相談するのが一番だと思います。

社会保険料の納付について

最後に、社会保険に加入した後、どのように社会保険料を納付するかについて説明をします。

社会保険料は、加入月ごとに毎月支払うことになっていて、翌月末日が納期限です。納付方法は2通りで、1つ目は「年金事務所から毎月送付される納付書による方法」、2つ目は「金融機関の口座からの自動引き落とし」です。

特段の手続をしなければ、納付書による納付となりますので、年金事務所から納付書が届いたら、その内容に従い、保険料を金融機関で納付して下さい。なお、国民年金の保険料はコンビニ等でも納付できますが、社会保険の保険料は金融機関でしか納付できませんので気を付けてください。

口座振替を希望する場合は、「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」という書式に必要事項を記入して、会社の預金口座のある金融機関から確認印をもらった上、所轄の年金事務所に提出する手続が必要となります。この際、ネット専業の銀行は利用できませんのでご注意ください。

なお、社会保険料は、労使折半ですので、給与計算の際、納付すべき社会保険料の半額を役員報酬から天引きする計算が必要になりますので、お忘れなきようご対応下さい。もう半額は、会社の福利厚生費から拠出することになります。

まとめ

社会保険に加入する手続き自体は、インターネットや書籍でもたくさん出ていますが、従来加入していた国民健康保険や国民年金をどうするかや、保険が切り替わるまでの過渡期の実務対応については、情報が少ないところですので、本コラムが起業家の皆さまの参考となれば幸いです。

榊 裕葵

ポライト社会保険労務士法人 社会保険労務士。上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務後、社会保険労務士として独立。勤務時代、常に経営者の側で仕事をしてきた経験も活かしながら、スタートアップ企業の労務管理体制の構築や、助成金申請の支援を積極的に行っている。